愛犬が年齢を重ね、夜鳴きや徘徊、トイレの失敗などが見られるようになると、人でいう認知症になったのではないかと心配になりますよね。
そんなとき、
「老犬の認知症に食事でできることとは?」
「どのような栄養素や成分を与えればいいの?」
「認知症の老犬の食事管理で気を付けるべき点は?」
といった疑問を持つのではないでしょうか。
犬の認知症は、獣医学では「認知機能不全症候群」と呼ばれ、近年は犬の高齢化に伴いよく見られるようになりました。
症状は少しずつ現れることも多く、「年を取ったから仕方がない」と見過ごされていることが少なくありません。
この記事では、老犬の認知症の原因とおすすめの栄養素や食べもの、食事管理のポイント、生活環境のケアについて獣医師が解説します。
最後までお読みいただき、老犬の認知症での食事について正しい理解を深めましょう。
まず知っておきたい老犬の認知症と脳の変化

犬も人と同じように、年齢を重ねることで脳の機能が変化します。
その結果、加齢による単なる「物忘れ」だけではなく、見当識障害や睡眠と覚醒のリズム、排泄などにさまざまな変化が見られることがあります。
- 家の中で迷うようになった
- 家具の隙間などから出られなくなる
- 昼間に寝て夜に起きるようになった
- 夜鳴きや徘徊が増えた
- トイレを失敗するようになった
- 飼い主への反応が変わった
- 不安そうに歩き回るようになった
- 以前より活動的になった、または活動量が減った
ただし、こうした症状は認知症だけで起こるとは限りません。
視力や聴力の低下、痛み、内分泌疾患、神経疾患などでも似た行動が見られることがあるため、「認知症だから」と決めつけないことが大切です。
ここでは、認知症でみられる主な脳の変化について、それぞれ詳しく見ていきましょう。
①加齢に伴い脳のエネルギー代謝が変化する

一般的に、脳はグルコースを主なエネルギー源としていますが、若い犬と比べ老犬の脳ではグルコースの代謝が低下する傾向があります。
こうした脳のエネルギー代謝の変化を背景に、現在はグルコースとは異なるエネルギー源として「ケトン体」が注目されています。
中鎖脂肪酸(MCT)は体内でケトン体の生成につながる脂肪酸として知られており、老犬の認知機能を食事面からサポートする栄養素の一つです。
こちらは、「認知症の老犬が摂取したい栄養素・成分」で詳しく説明しています。
②酸化ストレスが増加する

年齢を重ねると、体内の抗酸化作用や細胞の修復能力が徐々に低下することなどから、体内では酸化ストレスの影響を受けやすくなると考えられています。
酸化ストレスとは、体内で発生する活性酸素が、脳を含めた体のさまざまな細胞にダメージを与えることを指します。
そのため、ビタミンやポリフェノールなどの抗酸化成分を含む食事が、老犬の健康を支えるうえで大切です。
③脳の萎縮やβアミロイドなどの蓄積がみられる

老犬の認知症の病態はまだ完全には解明されていないものの、人のアルツハイマー病と共通する病理学的な変化が確認されています。
認知機能不全症候群の犬の脳では、共通して脳全体の顕著な萎縮が見られます。
また、βアミロイドと呼ばれるたんぱく質が脳の中に蓄積することも、よくみられる変化の一つです。
βアミロイドは、もともと脳の中で作られているたんぱく質の一種ですが、年齢を重ねるにつれて脳の中に少しずつ蓄積していくと考えられています。
さらに、脳の構造だけでなく、神経細胞同士が情報を伝える仕組みにも変化が見られると報告されています。
老犬の認知症を完全に治す治療法はない|だから食事によるサポートも重要

現在、犬の認知機能不全症候群そのものを完全に治す方法は確立されていません。
だからこそ、お薬による症状の緩和に加え、食事による栄養管理や環境整備などを組み合わせたケアを行い、愛犬がより穏やかに過ごせる時間を作ってあげることが大切です。
一般的に動物病院では認知症を疑う症状を確認し、不安を和らげるお薬や、夜鳴きを抑えるお薬などが処方されます。
また、必要に応じて認知機能をサポートする目的で、サプリメントが提案されることも珍しくありません。
さらに、運動や生活環境に関するアドバイスが行われることもあります。
このように、老犬の認知症では、さまざまな方向から適切なサポートを行うことが重要です。
もし愛犬の様子で気になることがある場合は、「年だから仕方ない」と自己判断せず、一度動物病院に相談するようにしましょう。
認知症の老犬が摂取したい栄養素・成分

「この食材を食べさせれば認知症が改善する」というものはありませんが、認知症の老犬の食事では、脳の健康を支える栄養素をバランスよく摂取することが大切です。
ここでは、老犬の認知機能の健康維持との関連が報告されている代表的な栄養素や成分を、それぞれ詳しく見ていきましょう。
①中鎖脂肪酸(MCT)

MCTは一般的な長鎖脂肪酸と比べて体内で利用されやすく、肝臓で代謝されてケトン体の生成につながります。
老犬では脳のエネルギー代謝が変化するため、MCTから生じるケトン体が脳のエネルギー源として利用される可能性が注目されています。
ただし、MCTを含む食材は「与える量が多ければ多いほどよい」というものではありません。
MCTを含む食材を自己判断で与えると、下痢や嘔吐などの症状につながることがあります。
与える前には一度獣医師に相談し、少量から様子を見ながら与えるようにしましょう。
- ココナッツオイル
- パーム核油
- 乳製品 など
②オメガ3脂肪酸

オメガ3脂肪酸のなかで、特に注目されているのが「DHA」と「EPA」です。
DHAは脳や神経組織に多く含まれる脂肪酸で、神経細胞の細胞膜などを構成しています。
神経細胞同士の情報伝達やシナプスの働きを正常に保つことに関係した役割を持ち、認知機能の低下が見られる老犬では、脳の機能を栄養面から支えることが期待されています。
一方、EPAは炎症反応を調節する効果や、血管の健康を支える効果が期待されている脂肪酸です。
実際の研究で、これらのオメガ3脂肪酸には、犬の認知機能の健康維持に効果があることが報告されています。※
また、オメガ3脂肪酸には、DHAやEPAだけでなく、ALA(α-リノレン酸)もあります。
ALAは体内でDHAやEPAへ変換されますが、その量には限りがあるため、「オメガ3ならすべて同じ」と考えるのではなく、どの種類のオメガ3脂肪酸を摂取しているかにも注目することが大切です。
- サバ
- イワシ
- サンマ
- 鮭 など
※参考:ドコサヘキサエン酸による犬の特発性てんかんの治療の可能性 ペット栄養学会誌. 28(2), 2025.
③抗酸化成分

老犬では、年齢とともに脳における酸化ストレスのリスクが高まるため、さまざまな抗酸化成分を摂ることが大切です。
代表的な成分として、
- ビタミンC
- ビタミンE
- ポリフェノール
- コエンザイムQ10
- βカロテン
などが挙げられます。
これらの成分は、細胞への活性酸素やフリーラジカルによる酸化ダメージを抑える働きに関わっていると考えられています。
- ビタミンC
…ブロッコリー、キウイ、イチゴなど - ビタミンE
…魚、卵、ナッツ類など - ポリフェノール
…ブルーベリー、りんごなど - コエンザイムQ10
…牛肉、豚肉、鶏肉、魚など - βカロテン
…にんじん、かぼちゃ、さつまいもなど
④L-カルニチン

L-カルニチンは、脂肪酸をミトコンドリアへ運ぶ過程に関わることで、エネルギー代謝を支える栄養成分として知られています。
老犬では脳でのエネルギー代謝に変化が起こりやすいため、L-カルニチンは全身のエネルギー代謝をサポートする目的で使用されることがあります。
- 羊肉
- 牛肉
- 豚肉
- 鶏肉
- 魚 など
認知症の老犬の食事管理で注意したいポイント5つ

認知症の老犬では、何を食べるかだけでなく、「どのくらい食べているか」「どうやって食べているか」「食べられているか」まで確認することが大切です。
ここでは、それぞれを詳しく見ていきましょう。
①必要なエネルギーと栄養をしっかり摂れるようにする

認知症だからといって、特定の栄養素だけを重視すればよいわけではありません。
まず大切なのは、総合栄養食を中心としたバランスのよい食事を心がけ、必要なカロリーをきちんと摂取することです。
老犬では活動量が低下して太りやすくなる一方、食欲の低下や病気などによって痩せてしまうケースも珍しくありません。
特に筋肉量が減少しやすいため、体重だけでなく、体型や筋肉の状態も定期的に確認しましょう。


②水分摂取や誤嚥にも注意する

認知症の老犬では、食事だけでなく水分摂取にも注意が必要です。
一般的に老犬では、喉の渇きを感じにくくなることで、水を飲む量が少なくなることが珍しくありません。
また、嚥下機能が低下している場合には、食事や水の誤嚥にも注意が必要です。
フードをふやかしたり、ウエットフードを使用したりするなど、食べやすさや水分摂取にも配慮してあげましょう。

③食事時間や環境をできるだけ一定にする

認知症の老犬では、環境の変化に戸惑いやすくなることがあります。
そのため、できるだけ毎日同じような時間、同じような場所で食事を与えることをおすすめします。
「朝になったらごはん」「この場所に行ったら食事」という生活のパターンを作ることで、日々の生活に一定のリズムをつけやすくなります。
食器やフードを置く場所を頻繁に変更するのも避けたほうがよいでしょう。
④食べやすい形状・食器・姿勢に調整する

老犬では、「食欲がない」と思っていても、実は「食べたいけれど食べにくい」というケースが少なくありません。
犬が高齢になると、
- 歯周病などの口腔内トラブル
- 嗅覚の変化
- 関節の痛み
- 筋力の低下
などが原因で、食事を食べにくくなることがあります。
フードの大きさや硬さを変えたり、食器や足場を安定させたりするなど、食事の食べやすさにも配慮してあげましょう。
また、首を大きく下げる姿勢が負担になる犬では、食器の高さを調整する方法もあります。
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⑤食欲や体重の変化を「認知症だから」と決めつけない

認知症の老犬では食欲や体重に変化が見られることがありますが、「認知症だから食欲旺盛、認知症だから食欲がない」と決めつけることは避けましょう。
たとえば、食欲旺盛なのに痩せていく場合には、糖尿病など別の病気が隠れている可能性があります。
反対に食欲が落ちた場合も、認知機能の低下だけではなく、歯や口の痛み、消化器疾患、腎臓などの内臓疾患、腫瘍など、さまざまな原因が考えられます。
食欲や食事量、飲水量、体重などに変化が見られる場合は、自己判断せず一度獣医師に相談するよう心がけましょう。
おやつやトッピングを増やしすぎないことも大切

認知症の老犬で食欲が低下すると、つい何か食べさせようとして、おやつやトッピングをたくさん与えてしまいがちです。
食べるきっかけを作るという意味では役立つことがあるものの、量が増えすぎると主食との栄養バランスが崩れたり、カロリーオーバーになったりすることがあります。
一般的に、おやつやトッピングは、1日の総カロリーの10%以内が目安であるため、1日の食事全体のバランスを考えて与えましょう。
以下に愛犬の情報を入力すると、おやつやトッピングの量を自動で計算できるので、ぜひ参考にしてください。
また、トッピング量についてより詳しく知りたい方には以下の記事もおすすめです。

認知症の老犬は食事だけでなく生活環境のケアも大切

犬の認知機能は、生活リズムや運動、環境から受ける刺激などとも関係します。
そのため、食事を整えながら、「毎日を過ごしやすくする環境づくり」も同時に行いましょう。
①生活リズムを整える
認知症の老犬では、昼間に寝て夜になると活動するなど、睡眠と覚醒のリズムが乱れることがあります。
毎朝決まった時間に、やさしく声がけをして起きるよう促したり、陽の光を浴びさせたり、飼い主様とコミュニケーションを取るなどして、日中に適度に活動する時間を作りましょう。
朝に明るい環境で過ごし、夜は照明を落として落ち着ける環境にすることは、生活リズムを整える工夫になります。
ただし、無理やり起こして外に連れ出しては老犬の負担です。愛犬の様子を見ながら、無理のないペースで少しずつリズムを整えるように意識していきましょう。
②嗅覚を使った遊びを取り入れる
フードを探す遊びやノーズワークなど、愛犬が楽しみながら嗅覚を使う遊びを取り入れることも大切です。
犬にとって嗅覚を使うことは、自然な探索行動の一つです。
ただし、認知症の進行度や体力には個体差があるため、難しい課題を無理に与えるのではなく、「できた」「見つけられた」という成功体験を作ることを意識しましょう。
③無理のない散歩を続ける
認知症の老犬では、散歩は長時間歩く必要はなく、その日の体調に合わせて短時間でも無理なく続けることが大切です。
散歩は単なる運動だけでなく、外の匂いや音、景色などを感じる刺激にもなります。
ただし、老犬では関節疾患や筋力の低下などを伴っていることが少なくないため、愛犬の様子を見ながら調節してあげましょう。
④家具や生活動線を大きく変えない
認知症の老犬にとって、慣れた環境はとても安心できます。
家具の配置を頻繁に変えたり、生活動線を大きく変更したりすると、老犬が不安を感じる可能性があるため、避けましょう。
また、認知症の老犬は徘徊することがあるため、家具の角や階段、段差などの危険をできるだけ減らし、滑りやすい床にはマットを敷くなどの転倒対策も重要です。
老犬の認知症に関するよくあるQ&A

ここでは、老犬の認知症に関するよくある質問をまとめました。
まとめ|老犬の認知症は食事と生活環境を組み合わせて支えよう

老犬の認知症は、年齢とともに進行することがあるため、早めに変化に気づき、適切に対応することが大切です。
食事では、MCTやオメガ3脂肪酸、抗酸化成分、L-カルニチンなど、脳や全身の健康を支える栄養素を取り入れてみましょう。
ただし、特定の食材や栄養素だけで認知症を治せるわけではありません。
まずは必要なエネルギーと栄養をバランスよく摂取できる食事を基本に、食べやすさや水分摂取、食事環境にも配慮しましょう。
また、認知症に似た症状が別の病気によって起こることもあります。
食欲や体重、行動などに変化が見られた場合は、「年齢のせい」と自己判断せず、動物病院へ相談することが大切です。
食事・生活環境・適切な治療を組み合わせながら、愛犬ができるだけ穏やかに過ごせる毎日を支えてあげましょう。



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