愛犬がよく水を飲む様子が見られ、動物病院を受診して「クッシング症候群」と診断されたら、心配になりますよね。
そして、次に思うのが、「食事を変えるべき?」「おすすめの食材は?」「そもそもクッシング症候群ってなに?」
ということでしょう。
犬のクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)は、体内でコルチゾールというホルモンの作用が過剰になる病気で、食欲の増加から体重が増えたり、筋肉量が低下したりすることも珍しくありません。
そのため、愛犬の体重や筋肉量などに合わせて、適切なカロリーやたんぱく質を摂取できるように食事管理を行うことが大切です。
特に老犬では、ほかの病気を併発している場合もあるため、それぞれの状態に合わせて食事内容を調整する必要があります。
この記事では、老犬のクッシング症候群における食事の考え方やおすすめの食材、併発症がある場合の注意点、クッシング症候群の病態について、獣医師が分かりやすく解説します。
最後までお読みいただき、クッシング症候群での正しい食事管理について、理解を深めましょう。
【大前提】クッシング症候群に専用の療法食はない

現在、犬のクッシング症候群そのものに対する専用の療法食は販売されていません。※2026年10月時点
通販では「クッシング用」や「副腎ケア」などと表示されたフードが販売されていますが、そのフードを食べることでクッシング症候群が治療できる、というわけではないことに注意が必要です。
また、そもそも療法食とは、特定の病気や健康状態にある犬の食事療法に使用するために、栄養成分の量や比率などを調整したフードのことで、獣医師の指示に基づいて使用されます。
そのため、クッシング症候群の食事管理では、愛犬の体重や筋肉量、併発している病気などを総合的に考え、獣医師と相談のうえで適切な食事を選ぶようにしましょう。
クッシング症候群の老犬の食事で大切なこと

クッシング症候群の老犬の食事では、以下のような点に注意しましょう。
- 良質なタンパク質を摂取する
- 良質な脂質を摂取する
- 食欲が増しても食べすぎないようにする
- 自己判断で栄養制限をしない
ここでは、それぞれの詳しい内容について、おすすめの食材とともに解説します。
①良質なタンパク質を摂取する

クッシング症候群の老犬の食事では、良質なタンパク質の摂取を意識しましょう。
クッシング症候群では、過剰なコルチゾールの影響によって筋肉量が減少することが少なくありません。
特に老犬では、加齢に伴う筋肉量の変化が加わり、さらに筋肉量が減少しやすい傾向があるので注意が必要です。
ただし、タンパク質は多く摂れば摂るほどよいというわけではありません。
特に腎臓病などを併発している場合はタンパク質を制限するケースもあるため、獣医師と相談してから与えるようにしましょう。
- ささみ
- 鶏むね肉
- 白身魚
- 卵
これらの食材は、脂肪分が少なくアミノ酸スコアが高いため、良質なタンパク質を補う食材としてよく使用されます。
ただし、食事の基本は総合栄養食を中心とし、トッピングとして加える場合は全体のカロリーの10%以内に留めましょう。

②良質な脂質を摂取する

老犬のクッシング症候群では、血液検査でコレステロールや中性脂肪が高くなることがあるため、「クッシング症候群であれば低脂肪の食事にしたほうがいい」と考える方もいるでしょう。
しかし、クッシング症候群の老犬すべてに、一律で脂質の制限が必要というわけではありません。
脂質はエネルギー源になるだけでなく、皮膚の健康などにも大切な必須脂肪酸を供給する重要な栄養素でもあります。
そのため、脂質を完全に避けるのではなく、愛犬の血液検査や体重、食事内容、併発症などを踏まえて、適切な量を摂取することが大切です。
- サバ、イワシなど青魚
- アマニ油
- エゴマ油
- 魚油
一方で、高脂血症や膵炎、肥満、糖尿病などを併発している場合には、食事中の脂質の調節が必要になることがあるため、注意しましょう。
③食欲が増しても食べすぎないようにする

愛犬が食欲旺盛だとつい追加で食事を与えたくなりますが、食事量を増やし続けることは避けましょう。
老犬のクッシング症候群では、コルチゾールの作用で食欲が増すことがありますが、肥満になると心臓や関節への負担などにつながる可能性があります。
食欲が増す場合は、食事を複数回に分ける、低カロリーの食材を利用するなど、満足感を高める工夫をすることがおすすめです。
- キャベツ
- 白菜
- ブロッコリー
- 大根
野菜は水分や食物繊維を含むものが多く低カロリーで、食事のボリュームを増やす方法として利用できます。
ただし、尿石症などでは野菜がおすすめできないケースもあるため、与える前には一度獣医師に相談しましょう。
また、かぼちゃやさつまいもなどは野菜の中ではエネルギーや糖質を比較的多く含むため、「野菜ならどれでもいい」と考えないことが大切です。
④自己判断で栄養制限をしない

もし愛犬がクッシング症候群と診断された場合は、自己判断で栄養制限をせず、一度獣医師と相談しましょう。
クッシング症候群に膵炎や糖尿病、肥満などを併発している場合は、脂質や炭水化物を調節した食事を使用することがあります。
しかし、そのような病気を併発していない老犬で必要な栄養素まで制限すると、栄養が不足することでかえって健康状態に悪影響を及ぼす可能性が否定できません。
繰り返しになりますが、老犬のクッシング症候群の食事では、体重や筋肉量、併発疾患なども考慮し、獣医師と相談の上、愛犬に合ったものを選びましょう。

老犬のクッシング症候群は併発症によって食事内容を調整する

老犬のクッシング症候群では、さまざまな病気を併発していることが珍しくありません。
具体的によくある併発疾患は、以下のような病気です。
- 高脂血症
- 糖尿病
- 膵炎
- 慢性腎臓病
- 蛋白尿
- 高血圧
- 甲状腺機能低下症
- アレルギー性皮膚炎・外耳炎
- 僧帽弁閉鎖不全症
- 慢性腸症
このように病気を併発している場合は、クッシング症候群そのものよりも、併発した病気に対応した食事を優先して選ぶことがあります。
ここでは、代表的な併発疾患の食事管理について、それぞれ詳しくみていきましょう。
①高脂血症がある場合

老犬では、血液検査でコレステロールや中性脂肪が高い状態を「高脂血症」と呼び、食事中の脂質やカロリーを調節することがあります。
一方で、脂質には必須脂肪酸のような体に必要な栄養素も含まれるため、すべての老犬で一律に制限することは、かえって健康状態に悪影響を及ぼす可能性が否定できません。
そのため、クッシング症候群と診断された時点で自己判断によって極端な低脂肪食へ変更するのではなく、検査結果をもとに獣医師へ相談しましょう。
②糖尿病がある場合

クッシング症候群で糖尿病を併発している場合は、炭水化物の量を調節した食事が推奨されます。
また食事の内容以外にも、食事量や食事の時間をできるだけ安定させることや、インスリン治療とのバランスを考えることが重要です。
自己判断での食事内容の変更は、糖尿病の治療に影響を及ぼす可能性があるため、注意しましょう。
③膵炎がある場合

膵炎を併発している場合には、脂肪の摂取量について特に注意が必要です。
犬の膵炎では、脂肪が多く含まれる食事が膵臓に負担をかけることが知られています。
この場合、クッシング症候群だけを基準に食事を考えるのではなく、膵炎の状態を優先して食事内容を調節することが多いです。
④腎疾患や蛋白尿がある場合

腎疾患や蛋白尿がある場合には、タンパク質だけでなく、リンなどミネラル分を含めた食事全体の調節が必要になることがあります。
そのため、老犬のクッシング症候群だからといって、筋肉量を維持するためにタンパク質を増やしたほうがいいとは限らないことに注意が必要です。
⑤肥満の場合

コルチゾールの影響で食欲が増し、体重が増えやすい状態で食事量やおやつが増えると、肥満につながることも珍しくありません。
一方で、肥満だからといって単純に食事量を減らしただけでは、必要な栄養素が不足してしまいます。
そのため、適量のタンパク質や炭水化物などを確保しながら、低カロリーの食材を使用してカロリーを調整することが大切です。
また、体重だけでは筋肉と脂肪の変化を十分に判断できず、気づいたら筋肉量の低下で体重が減っているケースもあるため、体型や筋肉の状態も一緒に確認するようにしましょう。

そもそも老犬のクッシング症候群とは?副腎皮質機能亢進症の基本情報

そもそも老犬のクッシング症候群とはどのような病気なのでしょうか?
食事管理を考えるうえでも、病気を正しく理解しておくことが大切です。
ここでは、基本的な病態とよくみられる症状、クッシング症候群の治療法について、それぞれ詳しく解説します。
①クッシング症候群はコルチゾールの作用が過剰になる病気

老犬のクッシング症候群は、正式には「副腎皮質機能亢進症」と呼ばれ、体内でコルチゾールというステロイドホルモンの作用が過剰になる病気です。
老犬のクッシング症候群には、主に次のタイプがあります。
- 下垂体性クッシング症候群(PDH)
…脳の下垂体から分泌される副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が過剰になり、副腎からコルチゾールが多く分泌されるタイプ - 副腎性クッシング症候群(AT)
…副腎の腫瘍などが原因で、コルチゾールが過剰に産生されるタイプ - 医原性クッシング症候群
…主にステロイド薬の長期投与で生じるクッシング症候群。
犬では下垂体性クッシング症候群(PDH)の方がよく発生すると言われているものの、病気の種類によって治療方針が異なるため、どのタイプに該当するのかを獣医師に確認したうえで、治療や食事管理を行うことが大切です。
②多飲多尿・多食・筋力低下などの症状が見られる

老犬のクッシング症候群では、コルチゾールの作用が過剰になることで、以下のようなさまざまな症状が現れます。
- 水をたくさん飲む
- 尿の量や回数が増える
- 食欲が増す
- パンティングが増える
- お腹が張る
- 筋力が低下する
- 毛が薄くなる
- 皮膚炎が起こりやすくなる
ただし、症状の現れ方には個体差があり、すべての症状が同時に見られるとは限りません。
また、こうした症状はほかの病気でも起こるため、症状だけでクッシング症候群と判断しないことが大切です。
③治療は薬物療法などが中心

下垂体性クッシング症候群(PDH)では、コルチゾールの産生を抑えるお薬による内科治療が一般的な治療法です。
一方、副腎性クッシング症候群(AT)では、腫瘍の状態や転移の有無、全身状態などを踏まえ、手術による腫瘍の摘出が検討されることがあります。
ただし、老犬で手術を行うリスクが高い場合や手術が適さない場合などには、お薬による内科治療が選択されることも珍しくありません。
また、病状や腫瘍の種類によっては、放射線療法などが検討されることもあります。
ただし、治療方針は、愛犬の病状や治療のリスクなどを総合的に考慮して獣医師が判断するものであり、年齢だけで決まるわけではありません。
治療内容に不明な点がある場合は、動物病院に相談するようにしましょう。
老犬のクッシング症候群の食事についてよくある質問

ここでは、老犬のクッシング症候群でよくある質問についてまとめました。
まとめ|クッシング症候群の食事は愛犬の状態に合わせて考えることが大切

老犬のクッシング症候群では、すべての犬に一律の食事制限が必要になるわけではありません。
愛犬の年齢や体重、筋肉量、血液検査の結果、併発している病気などを考慮し、獣医師に相談しながら適切な食事を選ぶことが大切です。
糖尿病や膵炎、高脂血症、腎臓病などを併発している場合は、それぞれの病状に応じた食事管理が必要になることがあります。
手作り食やサプリメントを取り入れたい場合も、自己判断で始めるのではなく、治療薬との併用や栄養バランスへの影響について、事前に動物病院に相談するようにしましょう。
食事はクッシング症候群そのものを治療するものではありませんが、愛犬の健康状態や生活の質を支える大切な要素です。
極端な食事制限は避け、定期的な診察や検査を受けながら、愛犬の状態に合った食事管理を続けていきましょう。



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