愛犬が年齢を重ね、自分でご飯を食べづらくなったとき、「強制給餌をしたほうがいいのでは?」と考える飼い主さんも少なくありません。
そんなとき、
「愛犬が嫌がらない強制給餌のやり方は?」
「うまくいかないのはなぜ?」
「強制給餌をするときは何に気をつければいい?」
と悩んでしまうこともあるのではないでしょうか。
老犬の強制給餌では、単に口の中へ食べ物を入れればよいというわけではありません。
飲み込む力が低下している老犬に無理に食べさせると、誤嚥から体調の悪化につながる可能性があるため、注意が必要です。
また、上手な強制給餌を行うためには、なぜうまくいかないかを確認し、愛犬に合った強制給餌の方法を見つける必要があります。
この記事では、老犬にやさしい強制給餌のやり方やポイント、与えるご飯の量や回数、おすすめのフード、カテーテルによる経腸栄養まで、獣医師が解説します。
老犬の強制給餌のやり方4選と愛犬に負担をかけないポイント

老犬では、歯や口や関節の痛み、基礎疾患、嚥下機能の低下など、さまざまな理由からご飯を食べなくなることがあります。
そのため、愛犬が自力でご飯を飲み込めることを確認したうえで、獣医師と相談しながら、愛犬に適した強制給餌の方法を見つけることが大切です。
例えば、口が痛いのにシリンジで無理やり強制給餌を行おうとしても、うまくいかないことが多いです。
ここでは、一般的によく行われる強制給餌のやり方とうまくいかない理由、強制給餌を行ううえで愛犬に負担をかけないポイントを解説します。
①手やスプーンで与える

この方法は、飼い主様が手やスプーンを使用し、少量ずつ様子を見ながら愛犬の口にご飯を運ぶ方法です。
フードをやわらかくふやかしたり、ペースト状にしたりして、犬が口を開けたタイミングで少量ずつ与えます。
愛犬が口を開けてくれない場合は、この方法ではなかなかうまくいきません。
コツとしては、犬歯の後ろにある隙間に手やスプーンを優しく入れると、自ら口を開けてくれることが多いです。
また、スプーンを怖がったり、スプーンの感覚を好まないケースもあるため、スプーンと手のどちらが愛犬に合っているか、様子を見ながら使い分けましょう。
- 口を無理に開けない
- 一度にたくさん入れず、ティースプーン1/4~1/2杯ほどから始める
- フードを食べやすい形状にする
- 飲み込んだことを確認してから次へ進む
- むせる、咳をする、嫌がる場合は中止する
- 頭を後ろに反らしすぎると、うまくいかないことが多い
②お団子にして与える

この方法は、ウェットフードやふやかしたドライフードなどを小さくまとめ、愛犬が飲み込みやすい形にしたうえで、手などで口に運ぶ方法です。
このとき、お団子を大きくしすぎてしまうと飲み込みにくくなるうえ、喉を詰まらせてしまうリスクもあります。
そのため、目安としては、ティースプーン1/4~1/2杯ほどの、一口で無理なく飲み込める大きさから始めましょう。
愛犬が口を開けない場合や、口に入れても吐き出してしまう場合は、別の方法で強制給餌を行うことをおすすめします。
- お団子は小さくする
- 口の奥まで押し込まない
- 一度にたくさん入れない
- フードを食べやすい形状にする
- 吐き出す場合は無理に入れ直さない
- 飲み込んだことを確認してから次へ進む
- むせる、咳をする、嫌がる場合は中止する
③上あごや頬の内側、歯茎などに塗る

この方法は、ウェットフードやペースト状にしたドライフードを、指などで頬の内側や歯茎などに少量ずつ塗り、愛犬に舐めてもらう方法です。
こちらは、口に痛みがあるときや、舐めることはできるものの、まとまった量を食べるのが難しいときに試してほしい方法になります。
一方で、舌をうまく動かせない、飲み込む力が弱いといった場合には、フードを塗っても口の中に残ってしまうことがあるため、注意しましょう。
また、一度に大量のフードを塗ろうとすると、うまく強制給餌ができない原因となることが多いです。
- 一度に大量に塗らない
- 指先に薄くのせられる程度のごく少量から始める
- 口の奥へ押し込まない
- 嫌がる場合は中止する
- 咳やむせがないか確認する
- フードを食べやすい形状にする
- 吐き出す場合は無理に入れ直さない
- 飲み込んだことを確認してから次へ進む
④シリンジ(注射器)を使う

こちらは、針の付いていないシリンジで液状のフードを口から与える方法です。
ただし、この方法は老犬の状態によっては誤嚥につながる危険があるため、注意が必要です。
特に、飲み込む力が弱い、咳が出る、意識がぼんやりしている、寝たきりで姿勢を保てないといった犬では、自己判断で行うことは避けるようにし、必ず一度獣医師と相談したうえで行いましょう。
コツとしては、犬歯の後ろにある隙間からシリンジを優しく入れると、口を開けてくれない老犬でも自ら口を開けてくれることが多いです。
- 口の奥へシリンジを入れすぎない
- 一度に大量のフードを流し込まない
- フードをシリンジで吸いやすい程度に柔らかくする
- 愛犬が自分で飲み込めていることを確認する
- むせる、咳をする、呼吸が苦しそうなどの症状があれば中止する
- 飲み込む力が弱い犬や、姿勢を保てない犬には自己判断で行わない
- シリンジでの給餌が難しい場合は、動物病院で別の栄養補給方法を相談する
老犬の強制給餌で与えるご飯の量と回数

強制給餌で与えるご飯の量は、体重だけを見て「1回○g」と決めることはできません。
まずは愛犬の1日に必要なカロリーを考え、そこから1日のご飯の量を計算し、何回かに分けて与えるという順番で考えると分かりやすいです。
以下に、愛犬の情報を入力すると自動で計算されるので、ぜひ参考にしてください。
また、ご自身で計算する方法を知りたい方は、以下で詳しく解説しています。
① 1日に必要なカロリーを計算する
老犬の1日に必要なカロリーを求めるには、体重から安静時エネルギー要求量(RER)を計算する方法があります。
RERは、以下の式で求められます。
RER(kcal/日) = 70×体重(kg)^0.75
例えば、体重5kgの犬であれば、
70×5^0.75 ≒ 234kcal/日
となります。
ただし、これはあくまで安静時に必要とされるエネルギー量の目安です。
老犬に必要なカロリーは、体重だけでなく、年齢や体型、活動量、病気の有無などによって変わります。
詳しくは、「老犬の1日に必要なカロリーをチェック!ご飯の量や回数も【犬の管理栄養士解説】」をご覧ください。
② 1日のトータルのご飯の量を決める
1日に必要なカロリーの目安が分かったら、次に使用するフードのカロリー密度から、1日に必要なフード量を計算します。
例えば、使用するフードが100gあたり400kcalと仮定し、1日に234kcalが必要な場合、
234kcal÷400kcal×100g≒59g
となるため、1日のフード量は59gが目安となります。
ただし、ウェットフードや療法食、流動食などに変更する場合は、それぞれカロリー密度が異なるため、注意が必要です。

③1日のご飯を少量頻回に分けて与える
1日の給餌量が決まったら、それを1回でまとめて与えず、4~5回程度に分けて与えます。
例えば、1日の必要量が59gだった場合、
- 1日4回に分けるなら1回約15g
- 1日5回に分けるなら1回約12g
が目安の量になります。
老犬の場合は、1回に食べられる量が少なくなっていることもあるため、さらに回数を増やすこともあります。
大切なのは、愛犬が無理なく食べられる量を少量ずつ与えることです。
また、食事の途中でむせたり、咳をしたり、飲み込めなくなったりした場合は、予定していた量を食べ終わっていなくても中止するようにしましょう。

老犬の強制給餌におすすめの高栄養フード

食べられる量が少ない傾向にある老犬の強制給餌では、少ない量でも必要なカロリーが摂取しやすい高栄養のフードを選ぶことがあります。
特に、消化性が高く、エネルギー密度が高く、必要なタンパク質やビタミン・ミネラルなどをバランスよく含むものがよく使われます。
①ロイヤルカナン クリティカル リキッド

※画像引用:ロイヤルカナン
ロイヤルカナン クリティカル リキッドは、病気の回復期や手術後など、栄養要求量が高まっている犬・猫向けに調整された流動食です。
形状はほぼ液体で、チューブやシリンジによる栄養補給にも適した製品とされています。
②ヒルズ プリスクリプション・ダイエット 回復期ケア a/d缶

※画像引用:ヒルズ プレスクリプション・ダイエット
こちらの商品も、病気や手術後などの回復期に必要な栄養管理をサポートする、犬・猫用の療法食です。
なめらかで食べやすいペースト状のフードで、手やスプーンで与える場合に使用しやすい形状となっています。
一方、腎臓病や消化器疾患などがある場合は、単純に「高カロリーならよい」とは限りません。
たとえば腎臓病では、タンパク質やリンなどを調整した療法食が必要になる場合があります。
そのため、持病のある老犬では、一般的な高栄養フードを自己判断で選ぶのではなく、病気に合った食事を獣医師に選んでもらうことが大切です。

老犬の強制給餌で誤嚥を防ぐための5つの注意点

老犬の強制給餌で最も注意したいトラブルの一つが「誤嚥」です。
食べ物が食道ではなく気管へ入ると、誤嚥性肺炎を引き起こし体調が悪化する可能性があります。
また、誤嚥性肺炎は一度発症すると繰り返しやすくなる傾向があるため、注意が必要です。
ここでは、老犬に強制給餌をする際に誤嚥を防ぐための注意点について、それぞれ詳しく見ていきましょう。
①1度に大量に与えない

強制給餌には時間がかかるため、「早く必要量を食べさせたい」と思ってしまいますが、飲み込むスピードを超えて食べ物を入れると誤嚥のリスクが高まります。
そのため、口の中へ一度にたくさんのフードを入れることは避けましょう。
1回1回少量ずつ、飲み込めていることを確認して行うことが大切です。
②急がずゆっくり行う

こちらも同様で、愛犬がご飯を飲み込む前に次々と食べ物を入れてしまうと、誤嚥のリスクが高まります。
そのため、時間をかけて急がずゆっくりと、愛犬がきちんとご飯を飲み込めていることを確認して行うことが大切です。
③長時間行わない

時間をかけて安全に強制給餌を行うことは大切ですが、何度も口を開けさせたり、長時間格闘したりすると、食事そのものを嫌がるようになることも珍しくありません。
老犬にとって強制給餌そのものが大きな負担になることがあるため、1回で無理に長時間行うのではなく、状態に応じて回数を分けることを検討しましょう。
④無理に頭を上げすぎない

食べさせるときに頭を大きく後ろへ反らせると、ご飯が喉に残ったり、うまく飲み込めなかったりすることがあるため、避けましょう。
飲み込みやすい姿勢は老犬の状態によって異なりますが、基本的には自然な姿勢を保ち、無理に上を向かせないことが大切です。
⑤どうしても嫌がる場合は無理をしない

強く抵抗する老犬に無理に強制給餌を続けると、口の中を傷つけたり、誤嚥につながったりする可能性があります。
「食べないから、もっと頑張って食べさせなければ」と考えてしまう飼い主さんは少なくありませんが、このような場合は無理をせず、なぜうまく強制給餌ができないか確認しましょう。
実は、吐き気や痛みなどが隠れていることも珍しくないため、強制給餌のやり方も含め、一度獣医師と相談するとよいでしょう。
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強制給餌が難しい老犬には、経腸栄養法もある

口からの強制給餌が難しい老犬では、以下のような栄養チューブを利用する経腸栄養という選択肢があります。
- 経鼻カテーテル
- 食道ろうチューブ
- 胃ろうチューブ
どの方法が適しているかは老犬の状態によって異なるため、まずは動物病院に相談しましょう。
ここでは、それぞれの経腸栄養について解説します。
※参考:ペット栄養学会誌、22(第21回大会号)、2019 犬や猫ががんになったときの栄養管理法
①経鼻カテーテル
経鼻カテーテルは、鼻から食道や胃へ細いカテーテルを入れる方法です。
数日から数週間程度の比較的短期間の栄養補給に利用されます。
全身麻酔を必要としないケースもあり、老犬へのストレスを抑えることができます。
一方で、チューブが細いため使用できるフードに制限があり、長期的な栄養管理には向かない点に注意が必要です。
②食道ろうチューブ
食道ろうチューブは、首の側面から食道へチューブを設置する方法です。
数週間~数か月間の中期的な栄養管理に利用しやすく、口から無理に食べさせる必要がなくなることがメリットです。
ただし、設置には全身麻酔が必要なことが多く、感染やチューブのトラブルなどのデメリットがあるため、老犬での実施には注意しましょう。
③胃ろうチューブ
胃ろうチューブは、お腹から胃へチューブを設置する方法です。
数か月~年単位の長期的な栄養管理が必要な犬で選択肢になることがあります。
チューブが太いため、さまざまな食事を使用することが可能な点がメリットです。
ただし、こちらも設置には全身麻酔が必要なことが多いため、愛犬の負担や麻酔のリスクをよく検討したうえで実施することが大切です。
老犬の強制給餌に関するQ&A

ここでは、老犬の強制給餌に関してよくある質問をまとめました。
まとめ|老犬の強制給餌は「食べさせること」だけを目的にしないことが大切

老犬の強制給餌にはさまざまな方法がありますが、愛犬の状態によって適した方法は異なります。
無理に食べさせるのではなく、愛犬が安全に飲み込める方法で、負担をかけずに栄養を補うことが大切です。
強く嫌がる、むせる、咳をする、飲み込めないなどの様子がある場合は、無理に続けず、動物病院へ相談しましょう。
また、口からの給餌が難しい場合には、経鼻カテーテルや食道ろうチューブ、胃ろうチューブなどを利用した経腸栄養が選択肢になることもあります。
「何とか食べさせなければ」と頑張りすぎず、愛犬の体調や生活の質を考えながら、その子に合った栄養管理の方法を獣医師と一緒に考えていきましょう。


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